2020年5月16日、中川木工芸 中川周士さんとInstagramライブ配信で行った対談。
ローカルのものづくり・工芸といった目線で「新しい生活様式」について語った。
中川:今日は日曜日だし、オープンエアでやろうということで。僕もこのあいだ工房の庭をスタッフのミーティングスペースにしたので、そこでお話しさせていただきます。
菊井:中川さんの工房って田んぼのど真ん中みたいなとこなんですね。僕らの工房は、和歌山市という県庁所在地ではあるんですが、最寄駅は無人駅。一応周りには昔からの人は住んでいるのですが、少しずつ空き家も増えてきて…という、いわゆる「ちょっと寂れた地方都市」です。
中川:滋賀と和歌山を繋いでまったりビール飲みながら、田舎・ローカルな場所でのモノづくり、みたいなこと話せたらいいよね。僕お酒弱いんですけど(笑)
もくじ
田舎のステイホームの過ごし方
中川:早速ですけど菊井さんステイホームどう過ごしてました?
菊井:この連休、ずーっとBBQしてましたね!
中川:家で?
菊井:そう、家で。もう3回くらいやって、今年はかなりハイペースですね(笑)けっきょく、地方とはいえ施設が休んでて、どこにも行けないから。家ですることってそれくらいしかなくなっちゃって。
中川:ウチもBBQは工房でスタッフ集めてやるけど、今年はまだやってないなぁ。田舎って、わざわざキャンプ場でしなくてもウチで出来るよね。周りも何にもないし(笑)
ステイホームで8割減らすってありますけど、僕ら田舎って普段から、工房スタッフ入れても1日に人と会うのは10人とかそんなんでしょ?
菊井:モノづくりしてると「今日誰とも口きかずに1日過ごしてたわ」みたいな?
中川:これ8割減らしたら家族とも会えない(笑)でも、その中で僕が取り組んでいたのは、ステイホーム・タウン。このエリアから出ないということは考えていました。今まで週2~3回の京都での打ち合わせをzoomで済ませるとか。
菊井:中川さんはzoomで工芸思考とかもされてらっしゃいますよね。ステイホーム・タウンといえば、僕はこの連休ずっと家の周りにいて、職場も自宅の徒歩数分なので、近所との付き合いは今回がきっかけで深まりましたね。お隣さんの子が春からうちの子と同じ保育所なんですけど、連休中ずっと遊んでたから家族ぐるみで仲がよくなっちゃって、今うちの子はお隣さんでお風呂入れてもらうようになりました(笑)
中川:広く遠くの人と付き合えなくなった分、近所との付き合い方は深まりますね。どんな状況でも人との付き合いをなくすのは無理だし、だから家にこもるばかりでなく、小さなステイホーム・タウンくらいの単位で取り組めたら、人間らしさをキープしながらこの状況と付き合えると思います。
菊井:zoomでの打ち合わせみたいに、離れた場所同士のつながりも大事ですよね。このライブ配信も、僕ら実は7年ぶりにお会いしてるんですよ。初めてお会いしたのが大阪グランフロントオープンで中川さんが講演した時、その数か月後にもう一度、ちょっとお会いしただけなのに、こうやって一緒に何かできる。これもひとつの、新しい人と人とのつながり方って感じがします。
中川:そうか、もう7年も経つんか。FacebookとかInstagramで見てたから、あまり久しぶりって感じはないけどね(笑)
菊井:コロナ以外でもホームタウンを意識しますか?という質問がライブコメントできましたが。
中川:僕は京都で生まれて、滋賀に越してきて17年になるんやけど、ここっていいよなという感覚はすごく出てきて、最近はこの地域に還元したいという意識が深まっています。滋賀の木も使ってみたいとか、近所でうちの仕事手伝ってもらうのもいいよな、とか。
桶ってもともとは農閑期の仕事だったんです。冬場、野菜が育たんときに家にこもって、桶とかわら細工とか竹細工とか。そういう形での兼業職人が、江戸時代とかの話ですが、ライフスタイルの中にあった。それが、工業化の波で能率・効率を求め専門化が進んでいるんですが、新しい生活様式を考える中で改めて、そういう昔ながらの兼業というのも見直されるんじゃないかと感じます。
新しい生活様式について
菊井:今、ステイホームから新しい生活様式に変わりましたよね、世の中のキーワードが。僕は、この「新しい生活様式」のブームはローカルにとって大きなチャンスじゃないかって考えてるんです。制限の解除や緩和は地方から順番に進んでいくので、僕らのほうが先にいろいろな実験ができる、試行錯誤ができる。だから、地方が主体的にいろんな実験を行って都市に提案していけば、新しいブームの流れが生まれそうな気がしています。
中川:僕が毎週やってるライブ配信も実験で。ネットやから菊井さんとつながって、何かしようと言うことができて。もちろんこれで終わりではなく、ここからまたリアルに会う、そしてまた別の企画をいっしょにする、という風につなげていきたいですよね。
菊井:今回のライブ配信はめっちゃ早かったですよね。普通であればもっと事前に打ち合わせと準備してからやるし、そもそも僕らモノづくりの人間が人前でしゃべってるなんて考えられない。
中川:昨日の朝「いっしょにライブ配信しようか」って言うて、テーマとか決める前に「日曜のランチ後、ビール飲みながら外でしよう!」と。その翌日にはこうしてますもんね(笑)
菊井:中川さんはライブ配信の実験をしてますが、僕もこれからやってみたい実験を考えてます。これまでは、地方では人が集まらないからイベントができなかったんですよね。でも、この状況の中では人の密集を避けなくてはいけなくて、「人が集まらない田舎だからできるイベントの形」が生まれるだろうと予想してます。いま、面白いことができるのは人が集まらない田舎だ!みたいな。
中川:今まではロールモデルが都市で、それを田舎でも当てはめていこうとしてたんだけど、やっぱりうまくいかなくて。でも、いまこの状況って、各地域にあったロールモデルを自分たちで作り出すチャンスだと思いますよね。
菊井:正解がなくなったので、失敗してもいいんですよね。いまは試行錯誤が許される期間なのかなって。例えばこのライブ配信だってスベってもいい(笑)
中川:特にここ数年って、失敗が許されない緊張感のある空気がありましたよね。それがガラッと崩れてそれこそ背水の陣、「失敗してなくなるモノも大したことないよな」ってなってくると、こういうチャレンジをいろいろできるチャンスですよね。いま二つのタイプの人がいると思ってて、いまは我慢我慢でなるべく動きや行動、新しいことを避けて避けて静かにされてる方と、開き直りでトライアンドエラーでいろいろやってみようという人。ここで新しいことに挑戦するかしないか、がこの先大きく分かれていくはずです。
菊井:それから、今の状況って自分がやった行動や実験の結果が返ってくるのもすごい早いんですよね。フィードバックが早いので、すぐやり直しが利く、そういう空気になってると感じています。
DIYと手仕事
菊井:ステイホームとか新しい生活様式について話しましたが、いまこの流れの中で、DIYもブームになってくると思います。その中で手仕事や職人はどこに向かっていくと思いますか?
中川:うちの工房では、今この状況でしばらく開催できずにいたのですが、一般の人に桶を作ってもらうワークショップ、オープン工房みたいなことしてるんですよ。だいたい材料費と指導費ということで1万5千円、うちの桶は4万円くらいするので格安なんですけど。桶を買いに来てくれた人が、ワークショップやるのを知って「じゃあワークショップ参加します」といって作ってくれたりするんですが
菊井:そんなことして売れなくなりません?
中川:そうじゃないんですよね。昔は襖や障子がきしんだら、お父さんとかおじいちゃんとかがカンナ出してきて直すということをしてたんですけど、今はそれがなくなった。それは、作ることと生活することに距離が出てしまったということなんです。昔は生活と作ることの距離が近かったから、プロと素人、カンナの削り方ひとつでも違いが体験として知っていたのに、今ではプロがやってるからキレイで当たり前になってしまってる。だから、実際に桶を作ってもらうという体験を通じて桶の良さやすごさ、職人へのリスペクトを感じてもらうんです。
菊井:短期的には4万円で売れた桶が1万5千円になってるんやけど、長い目で見たときには桶の文化を根付かせて成熟させていくことが大事だと。
中川:その通りです。桶を作った人がその良さを知って周囲の人にも伝えてくれる。誰かへの贈り物には僕が作った桶を買ってくれる。そうやってひとつの文化になるので、50年100年後のためになにをするか、というところです。
菊井:中川さんの仰ることって、コロナの混乱に関係なく工芸やものづくりの課題であったことですよね。改めて今、そういった課題にスピード感もって取り組めている時期なのかなと。
中川:一時的にはDIYが流行っても、「自分でやってみたらうまくいかへん。やっぱりプロの腕やな」ってことで改めて専門性が見直されるんですよね。僕、髪の毛奥さんに切ってもらったりもするんやけど、ちゃんとしやなあかん時はプロに切ってもらって、やっぱり全然違うなって思いますよね。当たり前ですけど(笑)
菊井:どの業界でも、素人では真似できないから生業として成り立ってきたわけですし、この混乱の中で必ず「その道のプロ」が巻き返す時が来るので頑張っていかないといけないですね。