コバルトシザーは1973年の誕生以来、愛され続けてきたキクイの定番です。
販売からすでに40年以上たちますが、シンプルなデザインと信頼の品質で多くのユーザーに支持される商品。
2015年には、なんとグッドデザイン賞も受賞しました!
全てのディテールに機能的な意味があり、その集積がプロポーションを決定している。合理的で理性的な説得力を感じた。発売当初からおおきな変更がないというのも基本設計のレベルの高さが伺える。今後も永くこの価値を市場に提供し続けてもらいたい。
ー2015年度グッドデザイン賞 審査員の評価より
がっちりマンデーで紹介されて以来、コバルトという金属についてもっと知りたいというお問合せも多いので、そもそもCoってどういうものか?
コバルトで美容師シザーを作り続けてきたキクイシザースが、より「金属」としての特徴にフォーカスして(マニアックな内容で)紹介します。
また、キクイシザースがおすすめするコバルト定番モデルの紹介はこちら↓の記事を読んでください。
もくじ
元素番号27 コバルト元素Coとは?
コバルトの語源はドイツ語で地の妖精を意味する「コボルト(Cobali)」
昔から冶金が難しく、妖精が困らせるために作った金属、ということで名付けられたそうです。
(※ Wikipedia情報ですみません・・・)
そんな「コバルト」という元素そもそもの大きな特徴として、
鉄(Fe)より錆びにくく、酸や塩基にも強い
という性質があります。
産出量が限られるレアメタル(希少金属)ですが、その性質を利用して
様々な合金の添加物として使用されています。
(コバルト単体では使われず、金属の耐食・耐熱・耐磨耗性を高める添加物として利用されます)
なかなか供給が安定しない上に最近ではスマホや自動車のバッテリーでも需要が増えているため、
原料価格も高騰し、国際相場はこの2年間で3倍というデータも出ています。
ステンレス添加物としてのコバルト
シザーの材料としても、一般的に使われているステンレスとは…ざっくりと言うと
鉄Feをベースに、クロムCrや炭素Cを混ぜた合金
のことをステンレスと総称します。
そしてこのステンレスは添加物を加えることで、用途に応じたキャラクターを持たせる事ができます。
中でも、ステンレスにコバルトCoを添加する事で、刃物鋼に必要な
靭性(粘り強さ) と 耐食性(錆びづらさ)
を高めることができます。
コバルトを添加したステンレスは、切れ味・耐久性のバランスが取れた刃物に仕上げることが出来ます。
いま日本のハサミメーカーが作っている上級モデルのシザーはほとんどがコバルトが添加されたステンレスです。
コバルト添加ステンレスはいい鋼材だと思いますが、鉄Feが主成分なので、使用環境によってはサビる事があります。
キクイの「コバルトシザー」は主成分がコバルト!
主成分が鉄でちょっとだけCoが混ざっている、というコバルト添加ステンレスが大半ですが、
キクイでは鉄をほぼ含まない、Coが主成分のコバルト基合金のハサミだけをコバルトシザーと呼んでいます。
コバルト基合金とは、コバルトCoをベースにクロムやタングステンを添加した合金。
最大の特徴は
ステンレスよりはるかに優れた耐食性
にあります。
キクイシザースではコバルトシザーを世界で初めて開発して以来、40年以上の実績がありますが、
理美容室の環境においてもコバルト基合金は絶対にサビる事がない金属と言うことが出来ます。
もうひとつ、ハサミにとって大切な耐摩耗性(滑らかさ)もコバルト基合金の特徴。
ハサミは構造上、開閉の度に刃と刃がお互いに擦れ合うため、硬ければいいというモノではありません。
むしろ、刃への負荷を減らすためには耐摩耗性(滑らかさ)が重要だとキクイは考えます。
コバルト基合金は摩擦係数が小さいため、開閉による刃の負担が軽減し切れ味が長持ちします。
サビにくい「コバルト添加ステンレス鋼」シザーと、
絶対にサビない「コバルト基合金」シザー
「コバルトが入ってると良い!」というイメージが独り歩きしてしまって、メーカーによってはステンレスでも、ちょっとコバルトを含んでいれば「Cobalt」と呼ぶため紛らわしいのですが・・・。
刃物は仕上げてしまえば材質が分かりづらいものだからこそ、正確な表記をすべきだと考えています。
なのでキクイシザースでは、両者を明確に区別をするために、コバルトが数%添加されたステンレスは「コバルト」と呼ぶことはしません。
それに、ステンレスのキャラクターを決めるのはコバルトだけでなく様々な添加物のバランス。
ステンレスに添加されるコバルトは、そのイチ要素でしかないですし、もっと言えば鍛造や焼き入れで良くも悪くもなります。
いずれにしてもそれぞれの良さがあるステンレスを、「コバルト」ばかり強調する必要もないだろうと思っています。
キクイの「コバルトシザー」には、どういった成分が添加されているのか??
こちらが、キクイシザースで使っているコバルト基合金の成分です。
これらをバランスよく混ぜ合わせることでコバルト基合金がうまれます。
合金は複数の成分を添加することで、さまざまな特性が掛け合わされます。
純コバルトだけでは脆(もろ)いという弱点をさまざまな添加元素が補うことで、用途に合わせた金属に生まれ変わる事ができます。
例えば、コバルトシザーに含まれる各成分の効果としては以下のようなものです。
純クロム Cr ・・・耐摩耗性、耐食性を増加させる。
フェロタングステン Fe-W ・・・引っ張り強さを増す。
純ニッケル Ni ・・・硬さ、強さ、靱性を向上させる。
純シリコン Si ・・・硬さを増加させる。
純マンガン Mn ・・・鋼の強靭性を増す。
カルシリマグネシウム Ca-Si-Mg
カーボン C ・・・強さ、硬さを増加させる。
こういった成分を規格に添った配合比で混ぜ合わせ、高温で溶解することで、ハサミの材料として最適な粘りと耐摩耗性を兼ね備えた「コバルト基合金」がうまれます。
コバルト基合金か コバルト添加ステンレスか?
美容師シザーを素材(鋼材)で選ぶときの注意点
このように、キクイシザースでは独自素材・コバルトにこだわったシザーづくりを続けています。
僕たちは理美容ハサミ用鋼材としてはコバルト基合金のメリット(耐食性・耐摩耗性)が大きいと思っています。
小さなメーカーのいち商品が、40年以上たくさんの方に愛用されてきたのも、その評価の証と自負しています。
希少金属なので材料費も高く加工の手間も掛かる鋼材ですが、やっぱり良いモノだなと思って作っています。
ですが、刃物は鋼材としての良し悪しだけで測れるものでもなく、
「切れ味というだけあって、“味”の好き嫌いもある」ものだと思います。
当然、コバルト基合金にはコバルト基合金の、ステンレスにはステンレスの、
それぞれの切れ味があって良さがあります。
また、鋼材による切れ味の違いも大切ですが、その特徴を分かって仕上げているかどうか、
作り手の姿勢も問われるのが刃物です。
それぞれの鋼材の利点、各メーカーの仕上げの違い、価格とのバランス、
そして最終的には切れ味・使い心地がしっくりくるかどうか。
総合的に判断して、結果的に辿り着いていただくのがキクイのコバルトシザーであれば、作り手冥利に尽きます。
以上、今回はちょっとカタくて取っつきにくい記事でしたが…
鋼材を知る事でハサミ選びの一助になれば幸いです。
キクイシザースでは、ラインでのお問い合わせにも対応しています。
材料やシザーの作りについて知りたいことも丁寧にお応えしますので、お気軽にお問合せください!